歴史小説の中でも特に評価の高い、ノーベル賞受賞作家パール・バックの『大地』(新潮文庫)。
その第2巻は、中国の近代化の波に翻弄されながらも生き抜く一家の姿を描いた壮大な物語です。
本作は、農民から成り上がった王龍(ワン・ロン)の一族が、新たな時代の波の中でどのように
変化し、葛藤していくのかを克明に描いています。
●あらすじ・内容(どんな本?)
極貧の小作農から這い上がった王龍の心は、大富豪となってからも大地を離れること
はなかった。だが、三人の息子たちは農民にはならず、それぞれの道を歩み始める。
玉大は地主に、王ニは商人に、そして王三は王虎将軍と呼ばれ、恐れられるほどの
軍人になった。年老いた王龍が死に瀕したとき、その枕で息子たちは、両親が血の
にじむような努力を重ねて手に入れた土地を売る相談を始める。
引用:文庫裏表紙より
●読みどころ
1. 【中国歴史小説おすすめ】『大地』第2巻の時代背景
『大地』第2巻の舞台は20世紀初頭の中国。列強の進出や辛亥革命(1911年)によって、社会は急速に
変化しつつあった。
農民出身の王龍は土地を増やし、成功を収めるものの、彼の子供たちはもはや父のような素朴な農民
ではありません。都市化が進み、西洋の文化や思想が浸透する中で、次世代の価値観は大きく変わり
つつあります。
王龍は、伝統的な農民の価値観を持ちながらも、富裕層としての生活を送り始めます。しかし、
彼の息子たちは父とは異なる道を選び、家族の間に亀裂が生じていくのです。
2.「土地こそがすべて」—王龍の執念と悲哀
王龍は、土地こそが人の生を支えるものだと信じ、何よりも土地を守ろうとします。しかし、時代の
流れとともに、それを受け継ぐ者は減っていきます。土地への執着と、それが失われていく現実の
狭間で苦しむ王龍の姿は、読者の胸を打ちます。
3. 世代間の価値観の違い
父親が必死に築いた富や地位を、子どもたちは当然のように受け取りながらも、それを重視
しなくなる。この世代間の価値観のギャップは、現代にも通じるテーマです。親が大切にし
てきたものが、子供にとっては必ずしも価値のあるものではない—この普遍的なテーマが切
なく響きます。
4.時代の変化に翻弄される家族
時代の流れは誰にも止められません。農民として生きることが最良だと信じていた王龍の価値観も、その息子たちには通用しなくなります。家族という最小単位の中に、時代の大きなうねりが影響を及ぼしていく様子が圧巻です。
●『大地』第2巻から得られる学び3選
(1) 「時代の流れに適応することの重要性」
王龍は土地に固執することで成功しましたが、時代の変化についていけず、
最終的には孤独になり
ます。過去の成功にしがみつくことが、必ずしも未来の成功を保証しないという
教訓を与えてくれます。
(2) 「親の価値観と子の価値観は違う」
どんなに親が大切にしているものでも、子供たちにとってはそうではないかもしれません。
これは、現代の親子関係にも通じる普遍的なテーマであり、家族のあり方について考えさせ
られます。
(3) 「富は幸せをもたらすとは限らない」
王龍は貧困から抜け出し、大きな財を築きましたが、それが必ずしも幸福にはつながりません
でした。経済的な豊かさと心の充足は必ずしも一致しないことを、本書は見事に描いています。
●どんな人におすすめか?
(1) 中国の近代史に興味がある人
『大地』は単なる家族の物語ではなく、20世紀初頭の中国の変遷をリアルに描いた歴史小説
でもあります。農村から都市へ、伝統から近代化へと移り変わる中国社会のダイナミックな
変化を感じられるため、中国史に関心のある方には特におすすめです。
(2) 親子関係や世代間の価値観の違いに悩む人
本作では、王龍とその子供たちの間の価値観の違いが克明に描かれています。親世代と
子世代のズレは、時代が違っても普遍的な問題です。親子の関係に悩んでいる方や、
世代間の価値観の違いに興味がある方にも響く作品でしょう。
●著者プロフィール: パール・バック (1892—1973)
米国ウェスト・バージニア州に生れる。宜教師の両親と共に幼くして中国に渡り、
そこで育つ。高等教育を受けるため一時帰国したのちび中国にとどまり、中国
民衆の生活を題材にした小説を書き始める。代表作『大地」(1931)で
ピューリッツァー賞を受賞、”38年に米国の女性作家としては初めてノーベル
文学賞を受賞した。 引用:文庫カバーより