金のためではない、情に動かされて人を救う「うぽっぽ同心、勘兵衛」
困っている者があれば助けてやる。
その為にご法度を破ることはあっても、
目こぼし料を受け取ることは決してない!
●あらすじ・内容(どんな本?)
万年橋のたもとに浮かんだ女のほとけ。襟の裏にはいわくありげな葉っぱが一枚縫い
込まれていた。妾殺しの下手人としてしょっぴかれたのは、真面目と評判の手代で・。
「おれはお人好しで役立たずのうぽっぽさ。だがな、黙っちゃいられねえときもある」
臨時廻り同心、長尾勘兵衛の粋な裁きが胸を打つ。傑作捕物帳シリーズ第二弾!
引用:文庫裏表紙より
●読みどころ
【魅力あふれる主人公・長尾勘兵衛】
主人公・長尾勘兵衛は、江戸北町奉行所の同心。武芸の腕も立ち、頭の回転も速い彼ですが、
どこか人間味あふれる温かさを持っています。「うぽっぽ」という愛称で親しまれる彼は、
部下や市井の人々と積極的に関わり、事件の真相に迫っていきます。
同心といえば、職務に忠実で冷静沈着なイメージがありますが、勘兵衛はそれだけにとどまらず、
人情を大切にしながら事件を解決する姿勢をもっています。正義感だけでなく、弱者に寄り添う
温かみがあるからこそ、自然と感情移入してしまいます。
【巧みに描かれる江戸の風俗】
坂岡真さんの本作では、江戸の町並みや人々の暮らしを生き生きと描写されています。
江戸時代当時の生活や職業の細部にまでこだわりが感じられます。たとえば、江戸の庶民が
日々口にする食べ物や、市場で交わされる会話、長屋でのやり取りなどがリアルに描かれており、
まるで江戸の町に迷い込んだかのような感覚を味わえます。
さらに、本作の副題にもなっている「恋文ながし」は、江戸の庶民の間で流行した習慣の一つ。
坂岡さんはこうした歴史的背景をうまく物語に取り入れ、時代小説としてのリアリティを深め
ています。
【ミステリー要素と人情のバランス】
時代小説の醍醐味の一つが、捕物帳としての謎解きの面白さ。本作では、勘兵衛が次々と巻き
起こる事件を解決していく様子が、テンポよく描かれています。謎を解くために、町の人々の
証言を集めたり、粘り強く探索を続けたりする姿は、現代のミステリー小説にも通じるスリル
を感じさせます。
しかし、単なる事件解決に終始しないのが本作の魅力。事件の背景には、人間関係の機微や情愛
が色濃く反映されており、犯人にも思わず共感してしまう場面もあります。
この「ミステリー」と「人情」の絶妙なバランスが、物語に奥行きを与えています。
●こんな人におすすめ
・時代小説が好きで、特に江戸の市井を舞台にした物語に惹かれる人
・人情味あふれるキャラクターが活躍する作品が好きな人
・謎解きや捕物帳の要素がある時代小説を楽しみたい人
・坂岡真作品が好きで、新たなシリーズを読みたい人
●著者プロフィール
一九六一年、新潟県生まれ。十一年の会社勤めを経て文筆の世界へ入る。江戸の情緒と
人情の機微、そして花鳥風月を醸し出す筆致で、多くの読者を魅了している。「鬼役」
「鬼役伝」「はぐれ又兵衛例繰控」シリーズで第十一回日本歴史時代作家協会賞「シリ
ーズ賞」を受賞。その他のシリーズに「帳尻屋始末」「帳尻屋仕置」「照れ降れ長屋風
聞帖」「死ぬがよく候」「人情江戸飛脚」などがある。 引用:文庫カバーより