いよいよ日露戦争の最終局面。
緊張感は極限に。陸の戦い、外交の駆け引き、
そして迫りくる大海戦の前夜!
◆あらすじ・内容と読みどころ
舞台は中国大陸、奉天(現在の瀋陽)。
日本とロシア、両国の命運を懸けた「奉天会戦」が始まろうとしています。
旅順陥落と黒溝台の死闘で、日本陸軍は疲弊しきっています。
それでも、ロシア軍にとどめを刺し、戦争を終結に導くため、
乃木希典をはじめとする将官たちは再び大攻勢を決意します。
この会戦は、兵力でも火力でも日本が劣勢の状況。にもかかわらず、
司令部は敵軍を包囲殲滅する「作戦上の賭け」に出ます。その中心となるのが、
満洲の広大な戦線を動かす「大山巌軍司令部」と、現地で指揮を執る参謀たち。
とくに、秋山好古が率いる騎兵隊は、敵の側背を突きつつ、孤立しながらも
機動的に戦場を動き回り、日本軍の動きを支えます。
兵士たちは極寒と飢えに苦しみながら戦い続けています。食糧や弾薬が底をつく中でも、
戦意を失わず戦列を守る兵士たちの姿には、ただの戦記以上の人間ドラマが宿ります。
一方、ロシア軍はクロパトキン将軍の指揮下で再起を図りますが、指導力の不安定さと
兵の士気低下、さらには国内の政治不安も重なり、次第に崩れていきます。
戦争の裏側では、外交と情報の戦いも続いています。
日本政府は、戦争の終結を見据え、アメリカをはじめとする列強との関係構築を進めています。
伊藤博文らが和平への道筋を模索し始め、明石元二郎はヨーロッパでロシアの弱体化を促す
秘密工作を継続中。つまり、兵を動かす表の戦争と、情報や交渉を武器とする裏の戦争が、
同時進行で展開されているのです。
そんな中、日本にとって最大の脅威が、ロシアの「バルチック艦隊」の接近です。
ヨーロッパからアフリカを回り、インド洋、マラッカ海峡を通って日本へ向かうこの艦隊は、
地球半周にも及ぶ途方もない航海の末にようやく極東に到達しようとしています。
そのバルチック艦隊の進路を、東郷平八郎率いる日本連合艦隊は固唾を呑んで見守っています。
連合艦隊司令部は、艦隊がどの海域を通るのか、どこで迎撃すべきかを見極めるために、
偵察と通信を駆使して探りを続けます。いよいよ、日本海での大海戦の準備が本格化します。
この第7巻は、「戦争の終わり方」について深く問いかける巻でもあります。
すでに国力の限界を超えて戦い続ける日本にとって、これ以上の消耗は破滅に等しい。
かといって、中途半端な講和は国民の不満を招き、交渉の席でも不利になる。
日本の政治と軍の間には、勝利の条件をめぐる温度差があり、戦争を
「いつ、どのように終えるのか」が次なる課題として浮かび上がります。
◆こんな人におすすめ
① 歴史好き・日本近代史に興味がある人
明治という激動の時代をリアルに描いており、日清戦争・日露戦争に至る政治・軍事の動きが
具体的かつ緻密に描かれています。「歴史が人間によって動いている」ことを実感できます。
② 自己成長や挑戦の物語が好きな人
主人公たちは地方出身でありながら、それぞれの分野で努力を重ね、
日本という国を背負って成長していきます。特に秋山真之の知性と戦略、秋山好古の胆力は
「個の力と情熱」が感じられます。
③ 志ある人間ドラマを読みたい人
明治という時代の若者が国家や時代に翻弄されながらも「何のために生きるか」「どう死ぬか」
を真剣に考え抜く姿には静かな衝撃と余韻が残ります。
◆著者プロフィール
大正12(1923)年、大阪市に生れる。大阪外国語学校蒙古語科卒業。昭和35年、
「家の城」で第42回直木賞受賞。41年、「竜馬がゆく」「国盗り物語」で菊池
寛賞受賞。47年、「世に棲む日日」を中心にした作家活動で吉川英治文学賞受賞。
51年、日本芸術院完恩賜質。57年、「ひとびとの登音」で読売文学賞受賞。58年、
「歴史小説の革新」についての功績で朝日賞受賞。59年、「街道をゆく南蛮のみち」
で日本文学大賞受賞。62年、「ロシアについて」で読売文学賞受賞。63年、「韃靼
疾風録」で大佛次郎賞受賞。平成3年、文化功労者。平成5年、文化勲章受章。
日本芸術院会員。著書に「司馬遼太郎全集」(文藝春秋)ほか多数がある。
平成8(1996)年急逝。
◆まとめ
戦場に立つ将兵たち、作戦を立てる参謀、外交の舞台裏で動く人々、情報を操るスパイ、
海の彼方からやってくる敵艦隊――。
それぞれの立場に立つ「個人」と「国家」の選択が交差する緊張感に満ちています。