司馬遼太郎の歴史小説『坂の上の雲』第6巻、
いよいよ日露戦争も終盤!
極寒の満州での戦闘、ロシア国内の革命運動への影響、バルチック艦隊の動向など物語は多角的に。

◆あらすじ・内容と読みどころ

黒溝台会戦と秋山好古の奮闘
旅順要塞の陥落後、日本軍は満州での冬営を計画していましたが、ロシア軍は極寒の中で攻勢を
開始します。秋山好古率いる騎兵部隊は、左翼の防衛を任され、数万のロシア軍の攻撃に晒され
ます。秋山は限られた兵力と資源で巧みに防衛戦を展開し、敵の進撃を食い止めます。しかし、
司令部は彼の報告を軽視し、増援も送らず、秋山の部隊は孤立無援の状況に置かれることに・・・

明石元二郎の諜報活動とロシア革命の兆し
一方、ヨーロッパでは、明石元二郎がロシア国内の革命運動を支援する諜報活動を展開します。
彼は中立国スウェーデンを拠点に、ロシアの反政府勢力に資金や情報を提供し、帝政ロシアの
不安定化を図ります。
この活動の狙いは、ロシア国内の不満を煽り、戦争継続への意欲を削ぐことだった。

バルチック艦隊の苦難と日本海海戦への布石
ロシアのバルチック艦隊は、ヨーロッパからアジアへの長い航海を続けていますが、
燃料補給や艦隊の統率に問題を抱え、士気は低下しています。日本海軍は、彼らの動向を注視し、
迎撃の準備を進めます。バルチック艦隊の苦難と、それに対する日本海軍の対応が歴史的な
日本海海戦への布石となっていく。

奉天会戦への準備と乃木軍の北進
旅順攻略後、乃木希典率いる第三軍は満州北部への進軍を開始します。
しかし、参謀長の交代や指揮系統の混乱により、軍の統率は乱れます。それでも、乃木軍は
奉天会戦に向けて準備を進め、最終決戦への道を歩みます。

◆名シーン

秋山好古、黒溝台で騎兵隊を率いて孤軍奮闘
このシーンでは、好古が極寒の満州で数万のロシア軍に対し、限られた兵力で防衛線を張り、
死守します。彼は「戦えば全滅、退けば突破される」という板挟みの中で、冷静に判断し続ける。
補給も援軍も届かず、文字どおり「孤軍奮闘」の戦い。「こんなに過酷な状況でも戦い抜く人がいる」
という強いインパクトを受けました。

明石元二郎のヨーロッパでの諜報活動
戦争は戦場だけではなく、「裏」でどう動くか、情報戦の重要性がおもしろいシーン。
明石はスウェーデンを拠点に、ロシア帝国内の革命勢力に資金援助を行い、帝政ロシアを
内側から揺さぶろうとします。「兵を送らずして戦局を動かす」という知的な戦いが
描かれており、これが後のロシア革命や戦意喪失にどのように繋がっていくのか・・・
戦争の表と裏をつなぐ鍵がおもしろい。

バルチック艦隊の困難な航海
これは直接の戦闘ではないものの、「巨大な敵がじわじわ迫ってくる」という緊張感があります。
バルチック艦隊はヨーロッパから何ヶ月もかけて東アジアに向かって進軍中。途中で誤射事件を
起こしたり、燃料不足で困ったり、艦内の士気はどんどん下がっていく。
それを日本側が冷静に観察し、対策を講じていく描写があり、次巻の日本海海戦へとつながる
「タメ」には「いよいよ何か起こるぞ」という期待と不安が高まる場面です。

「人の苦悩」「準備と決断」「圧倒的な不利への挑戦」といった人間ドラマが名シーンにはあります。

◆こんな人におすすめ

① 歴史好き・日本近代史に興味がある人
明治という激動の時代をリアルに描いており、日清戦争・日露戦争に至る政治・軍事の動きが
具体的かつ緻密に描かれています。「歴史が人間によって動いている」ことを実感できます。

② 自己成長や挑戦の物語が好きな人
主人公たちは地方出身でありながら、それぞれの分野で努力を重ね、
日本という国を背負って成長していきます。特に秋山真之の知性と戦略、秋山好古の胆力は
「個の力と情熱」が感じられます。

③ 志ある人間ドラマを読みたい人
明治という時代の若者が国家や時代に翻弄されながらも「何のために生きるか」「どう死ぬか」
を真剣に考え抜く姿には静かな衝撃と余韻が残ります。

◆著者プロフィール

大正12(1923)年、大阪市に生れる。大阪外国語学校蒙古語科卒業。昭和35年、
「家の城」で第42回直木賞受賞。41年、「竜馬がゆく」「国盗り物語」で菊池
寛賞受賞。47年、「世に棲む日日」を中心にした作家活動で吉川英治文学賞受賞。
51年、日本芸術院完恩賜質。57年、「ひとびとの登音」で読売文学賞受賞。58年、
「歴史小説の革新」についての功績で朝日賞受賞。59年、「街道をゆく南蛮のみち」
で日本文学大賞受賞。62年、「ロシアについて」で読売文学賞受賞。63年、「韃靼
疾風録」で大佛次郎賞受賞。平成3年、文化功労者。平成5年、文化勲章受章。
日本芸術院会員。著書に「司馬遼太郎全集」(文藝春秋)ほか多数がある。
平成8(1996)年急逝。

◆まとめ

『坂の上の雲』第6巻は、戦場だけでなく、外交や諜報活動など、
多面的な視点から日露戦争が描かれています。
戦争の裏側で繰り広げられる人間ドラマや、国家の運命を左右する決断が、満載です。