人気作家・遠藤周作の”泣ける歴史小説”

●あらすじ・内容

キリスト教文学者遠藤周作が戦時中の一人の女性を通じて”やさしい愛”を描く。

第二次世界大戦下の長崎で、互いに好意を抱きあうサチ子と修平。しかし、戦争の荒波は二人の愛を無残にもらき裂いていく。修平は聖書の教えと武器をとって人を殺さなくてはならないことへの矛盾に苦しみつつ、特攻隊員として出撃する。そして、サチ子の住む長崎は原爆にみまわれる。激動の時代に、仰をまもり、本当の恋をし、本当の人生を生きた女の一生を鮮やかに描き出す。引用:文庫裏表紙より

●おすすめどころ・感想

「幸せとは何か?」「理想と現実の狭間で、私たちはどう生きるべきか?」このような問いに心を揺さぶられることはありませんか?
遠藤周作の名作『女の一生 二部・サチ子の場合』は、そんな私たちが人生の答えを探す旅の道しるべとなる一冊です。50代ともなれば、仕事や家庭、そして自身の過去を振り返る瞬間が自然と増えてきます。

この作品は、そんな私たちが「自分の生き方」を見つめ直すための深い示唆を与えてくれます。
平凡ながらも鮮烈に描かれる主人公・サチ子の物語を通して、だれもが自分自身が主人公の人生をやさしく振り返ることができ、明日を生きる力をあたえてくれるでしょう。

修平の苦悩

修平はふざけたことが好きで普段は冗談ばかり話す青年。しかしキリスト信者として心のおくでは悩み苦しんでいた。

十戒の一つである『殺すなかれ』この言葉がひたすら戦争に突き進む日本国の一国民でありキリスト教信者として彼を悩ませた。

人を殺さなければならない戦争に行かねばならない。しかし協会は戦争にいっても人を殺してはいけないとは言ってくれない。

沈黙しているだけだった。悩みに悩んで修平は一つの結論をだす。

そのことを告白する手紙をとある牧師とサチ子にあてて書く。その告白には胸が締め付けられた。

戦争とはどれだけ人々を苦しめるのだろう。答えはない。

もう一つの物語・・アウシュビッツのコルベ神父の無償の愛

コルベ神父が家族のある男の身代わりに餓死の刑を受けるアウシュビッツの場面はたんたんと描かれているが、とても深く心にずしりと重いものを落とした。

コルベ神父が身を呈して本当の無償の愛をしめす、いったいどういう気持ちだったのだろう?

想像しようにも想像の域を超えていて理解がついていかないというのが率直な気持ちだった。

無償の愛、それは本当にあるのか?キリスト信者でもなかなか信じられない無償の愛が当時もっとも悲惨で世界で一番愛とは無縁と思える場所であるアウシュビッツにあったのだ。

サチ子の人生

どんな人間にも、深い人生がある。表面は何もないようでも、沼のようなその底にはその人の苦しみ、悲しみ、悦びと共に願いと祈りとが、地層のように集積しているものだ。サチ子の人生もきっとそうだ。

戦争が終わって30数年後、サチ子は東京の郊外で普通の主婦として、生活していた。

真面目な夫と高校生の娘と浪人中の息子の4人家族。夫や子供たちからするとサチ子は平凡な母親であり、しっかり者の妻であった。

修平との本当の恋も原爆がおちて一瞬で阿鼻叫喚の場所となった故郷のことも彼らは知らない。

普通の主婦が家庭を持つ幸せ、子供を持つ楽しさ、そして本当の恋。

幸せや悦びだけではなく、戦争や大切なものを失う苦痛と悲しみを、実はこれらたくさんのものを神から与えられていることに彼らは気づかないものなのだ。気づかないもの。

決してサチ子が特別なのではない。

誰もが表には見えないものをそれぞれが抱えながら生きていいるものなのだ。

●この本をおすすめする人

人生に迷いや悩みを抱える人・・普通の平凡な一人の女の一生を通じて、人を愛する悲しみや、生きる苦しみや苦悩など多くのことを感じることで明日を生きる力が得られるでしょう。

●著者プロフィール

東京生れ。幼年期を旧満州大連で過ごし、神戸に帰国後、11歳でカトリックの洗礼を受ける。慶応大学仏文科卒。フランス留学を経て、1955(昭和30) 年「白い人」で芥川賞を受賞。一貫して日本の精神風土とキリスト教の問題を追究する一方、ユーモア作品、歴史小説も多数ある。主な作品は『海と毒薬』『沈黙』『イエスの生涯」「侍」「スキャンダル』等。’95(平成7)年、文化勲章受章。’96年、病没。引用:文庫カバーより

●まとめ

サチ子、修平、コルベ神父この3人が主人公の物語。

3人のキリスト教徒の生き方と苦しみが第2次世界大戦を時代背景としてリアルに描かれている。

修平は遠藤周作自身がモデルのような感じがするところもリアルさと親近感を感じさせる作品である。