読むと自然と心がほぐれる一冊です。
仕事に追われる日々の中で、ホッとひと息つきたくなる50代におすすめしたい作品。

●あらすじ・内容(どんな本?)

家禄を継げない武家の次男坊・林只次郎は、鶯が美声を放つよう飼育するのが得意で、それを生業とし
家計を大きく支えている。ある日、上客の鶯がいなくなり途方に暮れていたときに暖簾をくぐった
居酒屋で、美人女将・お妙の笑顔と素朴な絶品料理に一目惚れ。青菜のおひたし、里芋の煮ころばし、
鯖の一夜干し・・・只次郎はお妙と料理に癒されながらも、一方で鶯を失くした罪責の念に悶々とする
ばかり。もはや、明日をも知れぬ身と嘆く只次郎が瀕した大厄災の意外な真相とは。
美味しい料理と癒しに満ちた連作時代小説、新シリーズ開幕。 引用:文庫裏表紙より

●読みどころ

<個性的で魅力ある登場人物たち>
女将・お妙
居酒屋「ぜんや」を切り盛りするしっかり者の女将。料理の腕前はもちろん、人情に厚く、
どんな客にも分け隔てなく接する姿が魅力的です。彼女の温かいもてなしと、時折見せる母のような
包容力が、店の雰囲気を作り上げています。

常連客・只次郎
無骨で口数の少ない常連客だが、店の空気を大切にし、陰ながらお妙を支える存在。
過去に様々な経験をしてきた彼の人生観や、静かに人を思いやる姿勢がじんわりと心に響きます。

お勝
居酒屋「ぜんや」で働くお妙の義姉。明るく気さくな性格で、店のムードメーカー的存在。
時には厳しいが、根は優しく、周囲に対する気配りも欠かさない。

菱屋のご隠居
商家を引退し、悠々自適に暮らしているご隠居。粋で洒落が利き、人生の機微を知り尽くした大人
の魅力を持つ。時折、若い人々に人生の知恵を授ける姿が印象的です。

1. 季節を感じる料理描写
本作の最大の魅力は、四季折々の食材を活かした料理の数々。表題の「蕗ご飯」をはじめ、
「カツオのたたき」「タケノコの天ぷら」など、シンプルながらも滋味深い料理が登場します。
ページをめくるたび、居酒屋「ぜんや」で湯気の立つ料理を前にしているような気分になれる。

2. 江戸の風情を残す居酒屋「ぜんや」
物語の舞台である居酒屋「ぜんや」は、東京の下町にひっそりと佇む名店。格式張らず、
それでいて品のある料理と女将のもてなしが心に沁みます。忙しい現代社会に生きる私たちに
とって、こんな店があったら通いたくなること間違いなし。

3. 人生の味わいを感じる人情ドラマ
この小説は、ただ美味しいものが出てくるだけの小説ではありません。お妙や常連客、それぞれが
抱える悩みや葛藤が描かれ、人と人とのつながりの温かさが伝わってきます。仕事の悩み、家族の問題
、年齢を重ねることで生まれる不安——そんな現実と向き合いながら、登場人物たちが少しずつ前を
向いていく姿に、共感せずにはいられません。

●こんな人におすすめ

仕事帰りに一杯やりたくなる人:居酒屋で一日の疲れを癒やす時間を楽しみにしている方にぴったり。

人生の節目を迎えた人:仕事、家庭、健康など、人生の様々な局面で変化が訪れる時期を迎えた人。

美味しいものが好きな人:美味しい料理の描写がたくさん。食べることが好きな方にはたまらない。

●著者プロフィール 坂井希久子Sakai Kikuko

1977年和歌山県生まれ。同志社女子大学学芸学部日本語日本文学科卒業。会社員を経て、プ口作家を
志し上京。小説講座での研鑽を経て、2008年、「虫のいどころ」で第88回オール讀物新人賞を受賞。
2015年、『ヒーローインタビュー』が『本の雑誌増刊 おすすめ文庫王国2016』のエンターテインメン
ト部門第1位に選ばれる。著書に『ハーレーじじいの背中』『ウィメンズマラソン』『虹猫喫茶店』
『ただいまが、聞こえない』『泣いたらアカンで通天閣』『羊くんと踊れば』『恋するあずさ号』
『こじれたふたり』などがある。 引用:文庫カバーより