【時代小説初心者さんへ】
心温まる物語と絶品料理に癒される『とろとろ卵がゆ 居酒屋ぜんや』の魅力

時代小説に興味はあるけれど、なかなか手が出せない…そんな風に思っていませんか?
今回ご紹介する『とろとろ卵がゆ 居酒屋ぜんや』は、美味しい料理と心温まる人情劇が織りなす、
時代小説初心者さんにもぴったりの一冊です。

この作品は、女性作家・坂井希久子さんの人気シリーズ「居酒屋ぜんや」の第8巻にあたります。
江戸時代を舞台に、人々の胃袋と心を掴む絶品料理を出す居酒屋「ぜんや」の女将・お妙と、
彼女に惹かれる武家の次男坊・林只次郎を中心に物語が展開します。
読み進めるうちに、まるで自分も「ぜんや」の常連になったかのような温かい気持ちになれるでしょう。

◆『とろとろ卵がゆ 居酒屋ぜんや 第8巻』あらすじ

絶品料理と癒しの笑顔が評判の居酒屋「ぜんや」。女将・お妙と馴染みの旦那衆が紅葉狩りを予定
していた日の前日、湯島からの出火で「ぜんや」にも火の手が及んでしまいます。屋根が燃え、
炎に包まれる光景を目の当たりにしたお妙は、幼い頃の記憶をよみがえらせ、
翌日から腑抜けたようになってしまいます。
只次郎はお妙を励まそうと、お土産を探しに酉のまちで賑わう浅草へ繰り出すのですが、
そこから思いもかけない美味しい出会いがあり・・・。
しあわせ沁みる料理は、喜びであり、生きがいであると、心ときほぐされる人情時代小説の第八巻です。

◆この本をおすすめするポイントを3つ

1.思わずお腹が鳴る!美味しそうな料理の描写

「居酒屋ぜんや」シリーズは「飯テロシリーズ」と呼ばれるほど、登場する料理がどれも
美味しそうに描かれています。庶民的な献立でありながら、お妙さんのちょっとした手間
と工夫によって、他にはない絶品料理に仕上がっています。
主人公の只次郎が料理を口にして思わず「うま、うま、うまぁ!」と声に出す様子は、
まるで隣で只次郎が隣で食べているようで、食欲を刺激されること間違いなしです。

2.温かい人情劇と魅力的な登場人物たち

「ぜんや」には、悩みや生きづらさを抱えた様々な人々が集い、
お妙さんの料理と笑顔に癒されていきます。
特にこの第8巻では、いつもは人々を癒す側のお妙さんが大きな困難に直面し、今度は周りの人々、
そして只次郎が彼女を支えようとする姿が描かれます。
只次郎がお妙さんを心から大切に思い、彼女のために奔走する様子は、温かい気持ちにさせて
くれます。登場人物それぞれの人間関係や成長が丁寧に描かれており、
読み進めるうちに彼らが愛おしく感じられるでしょう.

3.時代小説初心者でも「ぐいぐい読める」読みやすさ

「時代小説は難しそう…」と感じる方もいるかもしれませんが、このシリーズは
「時代小説っぽさがなく、ぐいぐい読める」と評判です。
江戸時代の風俗や食文化が分かりやすく描かれているだけでなく、時間の表現などに現代的な
注釈が入る工夫もされており、歴史に詳しくなくてもすんなりと物語に入り込めます。
実際に、時代小説に興味がなかった人がこのシリーズをきっかけに時代劇ドラマにまでハマった
という人もいるくらいです。

◆この本をおすすめする人

•時代小説に興味があるけれど、何から読めばいいか迷っている方。

•美味しい料理の描写を読んで、癒されたい方。

•心温まる人情話や、登場人物たちの優しい交流に触れたい方。

•キャラクターの成長や、変化していく人間関係を楽しみたい方。

◆各短編ごとの詳しいあらすじと感想

この巻は「月見団子」「骨切り」「忍れど」「夢うつつ」「もつべきものは」の五つの短編で構成されています。

•月見団子

お月見団子やおはぎ(春はぼたもち)を巡る物語に、身寄りのない少女・お梅ちゃんの話が加わります。
飢え、傍にいた大人にも捨てられてしまったお梅ちゃんが、お妙さんの作ってくれた焼いたお団子を
無心に食べる姿は切ないほどです。
お妙さんが幼い頃に親を亡くしていることもあり、
お梅ちゃんの気持ちに深く寄り添う姿は胸を打ちます。
最終的にお梅ちゃんは「ぜんや」の常連さんたちの助けもあり、
新しい奉公先を見つけることができ、いつものように
只次郎やお妙さんたちの笑顔で終わるのが尊いエピソードです。

•骨切り

黄表紙本に夢中になって寝不足になった只次郎が、お妙さんに寝坊を咎められるところから始まります。
侍が食べることを禁忌とする食物(例えばキュウリやコノシロ、マグロなど)が話題となり、
只次郎がそれらをためらいなく食べるようになってしまったことを
常連の菱屋のご隠居に指摘されます。
そんな中、おしろいを扱う三文字屋が、上方から来た商売敵に対抗するための
新しい商いの案を只次郎に依頼します。

•忍れど

只次郎が出した案は、白粉包に会える美人を絵に描いてもらい、黄表紙本で宣伝するというもの
でした。そのモデルに、只次郎の提案でお妙さんがなることになり、絵師と髪結いを連れて
三文字屋がやってきます。
この絵師は、後の葛飾北斎(当時は勝川春朗と名乗っていました)のようです。
しかし、その晩、湯島からの出火で「ぜんや」にも火の手が及んでしまいます。
火に包まれる「ぜんや」を目の当たりにしたお妙さんには、幼い頃の両親の死の記憶
(賊に殺され、放火されたという衝撃的な真実)が鮮明によみがえり、
胸が苦しくなるような切ないシーンが描かれます。
只次郎はお妙さんの大切な鶯を抱えて彼女の元へ駆けつけ、裏長屋の住民の避難を確認した後、
共に避難しようとしますが、お妙さんは火事に打ちのめされてしまいます。

•夢うつつ

火事から逃れて、お妙さんは升川屋の離れに、只次郎は菱屋の離れに身を寄せます。

火事とトラウマでずっと食事もとらず、夢うつつの状態を彷徨うお妙さんを、
周囲の人々が案じ、いたわります。そんな中、只次郎は大人になったかのように、
お妙さんの代わりに「ぜんや」の焼け跡や、おえんやお勝さんの様子を見て回ります。

そこで出会った人々から様々なものをもらい、最終的に只次郎の手元に残ったのは
卵でした(まるでわらしべ長者のようです)。

只次郎はその卵でお妙さんのために、タイトルにもなっている「とろとろの卵がゆ」を作ります。
お妙さんが「美味しい」と呟きながらその粥を口にするシーンは、温かくも感動的です。
その時、お妙さんは只次郎とお志乃さん(只次郎の姉)に、今まで封印していた両親が
賊に殺されたという過去を打ち明けます。只次郎が涙を流すお妙さんを体ごと抱きしめ、
支える姿は本当に素敵で、優しい美味しい食べ物が人を癒すという
このシリーズのテーマを象徴する場面です。

•もつべきものは

火事の衝撃から立ち直り、ようやく元気になってきたお妙さんと、人々が再会する温かい物語です。
お正月には餅つきも行われ、美味しいお餅をみんなで囲みます。お志乃さんがお妙さんにもう一度
「ぜんや」をやりましょうと声をかけるシーンは、多くの人を支えてきたお妙さんが今度は
支えられる側に回る、人々の繋がりが感じられる感動的な場面です。
切なく悲しい出来事が描かれた巻ではありますが、最後はいつものように美味しいものを食べて、
みんなが笑顔になる点が、このシリーズの最大の魅力と言えるでしょう。

◆著者プロフィール

坂井希久子(さかい・きくこ)さんは、1977年に和歌山県で生まれた作家です。
2008年に「虫のいどころ」でオール讀物新人賞を受賞し、作家デビューを果たしました。
そして、この「居酒屋ぜんや」シリーズの第1巻にあたる『ほかほか蕗ごはん 居酒屋ぜんや』で、
2017年に歴史時代作家クラブ賞新人賞を受賞しています。
「居酒屋ぜんや」シリーズは、角川春樹社長から直々に
「美人女将が出てくる時代小説を10作品のシリーズで書いてほしい」という依頼を受けて
執筆されたもので、2016年6月に第1巻が発売されました。

◆まとめ

『とろとろ卵がゆ 居酒屋ぜんや』は、美味しい料理が心を癒し、困難に立ち向かう人々の
温かい繋がりが描かれた、まさに「人情時代小説」の傑作です。

特にこの第8巻は、シリーズにとって大きな転機となる出来事が起こり、
登場人物たちの絆や成長が深く描かれています。

時代小説は敷居が高いと感じる方も、このシリーズであれば
きっとその世界に引き込まれることでしょう。
只次郎とお妙さんの関係性の変化、そして新たな謎の浮上など、続きが気になる要素も満載です。

ぜひこの機会に、『とろとろ卵がゆ 居酒屋ぜんや』を手に取って、
美味しい料理と温かい物語の世界に浸ってみてください。