キリシタン禁制の時代に決して信仰を捨てなかった百姓たち。彼らの命がけの信仰に神はどうこたえるのか
●あらすじ・内容
島原の乱が鎮圧されて間もないころ、キリシタン禁制のあくまで厳しい日本に潜入したポルトガル司祭ロドリゴは、日本人信徒たちに加えられる残忍な拷問と悲惨な殉教のうめき声に接して苦悩し、ついに背教の淵に立たされる・・・・・。神の存在、背教の心理、西洋と日本の思想的断絶など、キリスト信仰の根源的な問題を衝き、<神の沈黙>という永遠の主題に切実な問いを投げかける書下ろし長編。引用:文庫裏表紙より
●おすすめどころ・感想
遠藤周作ほど固くまじめな一面とふざけて面白い、両極端な顔をもつ作家はいないのではないか。
「沈黙」はもちろん固くまじめな方の遠藤周作が書いた本です。
〈神の沈黙〉という非常に深いテーマでとことん考えさせてくれる。
時代は島原の乱の少し後の江戸時代。鎖国で禁教とされたキリスト教弾圧が最も厳しかった時代。
そのような時代背景であった日本で隠れてキリスト教の信仰を守り続けている百姓たちが長崎にいた。
隠れキリシタンはなぜ、どれほどひどい弾圧を受けても信仰をすてなかったのか?踏み絵を踏める者、なかなか踏めずに捕らえられてしまう者、どちらも苦しんだだろう。
なぜそのような苦しみを受け入れてきたのか?ポルトガルの若い司祭たちはキリスト教が禁教とされ、彼らの尊敬する恩師でされ棄教させられているかもしれない、今の幕府では布教は不可能と考えられた日本へ危険をおかしてまで行くのをやめなかったのか?
幕府のキリスト教迫害と隠れキリシタンの信仰・ポルトガルの司祭たちの布教とがどのようにかかわりを持っていたのかを江戸時代初期にあった歴史的な出来事として見てみるはとても興味深い。
なぜ幕府はここまでかたくなにキリスト教を弾圧したのか?
隠れキリシタンはなぜ厳しい迫害を受けながらも信仰を捨てようとしなかったのか?
宗教の自由が当たり前の時代に生まれて、育ってきたにもかかわらずキリスト教に限らず宗教とは無縁に生きている人が多い今、そんな事を今の時代に少し考えてもいいのではないか。そのきっかけになりうる一冊です。
●この本をおすすめする人
日本人とキリスト教に興味がある人・・世界文化遺産にも登録されている長崎の潜伏キリシタンともかかわりのある物語です
遠藤周作が好きな人・・・キリスト教徒であった遠藤周作の多数あるキリスト教や宗教信仰に関する小説やエッセイの代表作です。
●著者プロフィール
東京生れ。幼年期を旧満州大連で過ごし、神戸に帰国後、11歳でカトリックの洗礼を受ける。慶応大学仏文科卒。フランス留学を経て、1955(昭和30) 年「白い人」で芥川賞を受賞。一貫して日本の精神風土とキリスト教の問題を追究する一方、ユーモア作品、歴史小説も多数ある。主な作品は「海と毒薬」「沈黙』「イエスの生涯」「侍」「スキャンダル」等。’95(平成7)年、文化勲章受章。’96年、病没。引用:文庫カバーより
●まとめ
信仰の自由がなく、厳しい迫害を受けた時代に命がけの本当の信仰があったということ。はるか遠い海の向こうから小さな島国に渡ってきてキリスト教の布教に命を懸けたポルトガルの青年司祭たちがいたという事だけでも感動します。人間の弱さや本当の強さとは?など考えさせてくれます。もう少し現代に近い時代の潜伏キリシタンを描いた「女の一生一部・キクの場合」もおすすめです