「偉人になる前の、ひとりの青年の物語」として、
『竜馬がゆく』を楽しんでみてください。
◆あらすじ、内容
時は幕末。黒船が浦賀に現れ、200年以上続いた徳川の世に動揺が広がるなか、土佐の一角に
一人の若者がいた。彼の名は坂本竜馬――後に維新のキーマンとなる男だが、この物語の冒頭
では、まだ“泣き虫で剣の下手な青年”に過ぎない。
高知城下、下級武士の家に生まれた竜馬は、幼い頃から剣術に自信を持てず、内気で不器用な
性格だった。しかし、姉・乙女の支えや、周囲の仲間たちに助けられながら、やがて彼は「何か
大きなことをやってみたい」という漠然とした志を抱くようになる。
その背景には、時代の激しいうねりがあった。黒船の来航によって、日本中が揺れ動く中、
土佐藩も例外ではなかった。藩内には、改革を志す若手グループ「山内容堂派」や、保守的な
「武市半平太らの土佐勤王党」の芽が見え始めていた。
竜馬が最初に転機を迎えるのは、江戸への剣術修行だ。剣の道を極めたい一心で、千葉道場に入門。
ここで彼は、千葉定吉やその娘・佐那と出会い、人としても剣士としても大きく成長していく。
物語は、この道場修行が主軸となり、竜馬の変化をじっくり描いていく。
最初は木刀すら振り切れなかった竜馬が、日々の稽古を重ね、やがて道場内でも一目置かれる
存在になる。「剣がうまくなりたい」という動機が、次第に「自分はこの国で何をなすべきか」
という問いへと変わっていく。ここに、竜馬の「思想」が芽生え始めるのだ。
また、千葉道場の中で出会う同門や、江戸の空気も彼に影響を与える。尊王攘夷を叫ぶ者、
西洋の技術を学ぼうとする者、政治に関心を持つ者…さまざまな考え方とぶつかり合いながら、
竜馬は“土佐の常識”が通じない広い世界に触れていく。
江戸では、もうひとつ大きな出会いがある。勝海舟――幕府海軍の立役者であり、開明的な
考えを持つ男との交流が、後の竜馬に大きな影響を与えることになる(※この時点では名前
のみの登場で、実際の出会いは後巻)。物語の随所に、そうした“未来の伏線”がさりげなく
描かれているのも、本作の面白さだ。
道場修行の傍ら、竜馬は故郷の家族や姉乙女との書簡のやりとりを通して、土佐の封建的な
身分制度や藩政に疑問を抱くようになる。下級武士がどんなに努力しても、上士には逆らえない。
学問も剣も一流になっても、身分がすべてを決める。この理不尽さを目の当たりにし、
「藩を超えた視点」で国を見ようとする意識が芽生える。
そんな折、尊王攘夷運動が全国で高まり始める。ペリー来航後、日本中が「開国か攘夷か」で
揺れるなか、竜馬もその嵐の渦に巻き込まれていく。だが彼は、「攘夷」や「倒幕」だけでは
語れない、もっと自由で柔軟な発想を求めはじめる。
◆読みどころ
【姉・乙女との手紙のやり取り】―家族に見守られた、やさしい竜馬の素顔
江戸修行中の竜馬と、故郷の姉・乙女との間で交わされる手紙。剣術の悩み、道場での様子
、江戸の生活などがユーモラスかつ真面目に綴られており、乙女の返信もまた温かくユニークです。
硬派な幕末物と思われがちな本作ですが、このやり取りはとにかく“人間くさい”。竜馬の天然な一面、
ちょっとおバカで優しい性格がよく出ていて、笑えて、あたたかくなる。
「竜馬=歴史の偉人」ではなく「竜馬=自分と同じ感情を持った兄ちゃん」だと実感できる名場面です。
【千葉佐那との出会いと交流】―女性に支えられ、成長していく竜馬
道場主・千葉定吉の娘、佐那との交流シーン。佐那は男勝りで剣の達人。竜馬は彼女に最初こそ圧倒され
つつも、徐々に信頼関係を築き、淡い感情も芽生えていきます。
のちの歴史上ではあまり語られない「竜馬の恋」の一端が垣間見えるシーンで、物語に彩りを加えています。
また、女性から刺激を受け、支えられ、考えを深めていく竜馬の姿が、彼の「感受性の強さ」と「柔軟さ」
を示していて、将来の活躍を予感させます。
◆著者プロフィール
◆ まとめ
第一巻では、まだ大きな歴史に関わっていない「等身大の竜馬」が味わえる
だからこそ初心者にとっては、歴史に詳しくなくても感情移入しやすく、読みやすい。
まずはこの竜馬を好きになれば、あとはどんどんページが進みます。