とうとう脱藩を果たした竜馬
幕末の風雲児竜馬がいよいよ全国を動き回りだす
■ あらすじ・内容
前巻で脱藩を果たし、「藩士」から「自由人」へと身を転じた坂本竜馬。文庫第3巻では、
その竜馬がいよいよ全国を動き回りはじめ、「幕末のネットワークマン」になっていく様子が
描かれます。
舞台は主に京都と江戸。
京都では、尊王攘夷の思想が過激派を巻き込み、街中で暗殺や討幕の動きが頻発しています。
浪士や志士たちが入り乱れる中、竜馬はどこか一線を引きつつ、
静かに“本当に意味のある変革”を模索しています。
● 勝海舟との運命の出会い
この巻の中心になるのが、ついに訪れる勝海舟との出会いです。
勝は、幕臣でありながら「開国論者」「海軍の父」とも言われる男。西洋の軍事や政治の仕組み
に通じ、日本を丸ごと変えようと考えている人物です。竜馬は、そんな勝に対して最初は
「幕府の人間」として警戒しながら接近します。
が、話してみて、価値観が一変します。
「敵ではなく、同士だ」。そう直感した竜馬は、なんとその場で勝の弟子入りを申し出ます。
この出会いは、竜馬にとって「武力によらず、話し合いと構想で日本を変える」という視点を
与える大転換点。剣を捨てて構想を持つ――幕末でそれができたのは、実は竜馬だけだった
のではないかと思えるほどです。
● 江戸での勝塾、そして海軍への夢
竜馬は勝の私塾に出入りし始め、多くの若者や志士たちと語り合います。
そこには、のちの明治新政府に関わる者たちもちらほら。
つまり、ここは「日本の未来の種」が蒔かれる場所です。
竜馬自身も、海軍創設の夢を共有するようになります。「日本は海の国である。海軍を持たねば
ならぬ」と。刀を振るうより、船を動かすことが未来を切り開く。
その柔軟な発想力が、この巻ではじわじわと形になっていきます。
● 京の混乱と竜馬の“距離の取り方”
一方、京の街では尊王攘夷派の志士たちが過激化し、攘夷の実行、暗殺、放火が相次ぎます。
武市半平太ら土佐勤王党の一部もこれに加わっています。
だが、竜馬は一歩引いてその動きを見ています。
“本当にこの道でいいのか?”
感情だけでなく、実を取る。理を立てる。そういう柔らかさが、竜馬の真骨頂です。
この時代に、こういう柔軟さを持った男がいたというのは、今読み返しても実に痛快です。
■ 刺さる!おすすめシーン3選
①【勝海舟と竜馬、はじめての対面】
一介の脱藩浪士と、幕府の大官。まったく立場の違う2人が語り合い、
目を輝かせて意気投合する場面は、まさに男同士の「魂の握手」。
「こんな人に会いたかった」という竜馬の心が、言葉の端々から伝わってくる。
出会いが人生を変えることがある――そんな感動をくれる名シーンです。
②【竜馬、勝の塾で“海軍”という未来を見る】
剣士だった竜馬が、「海軍をつくる」というまったく違う夢を語りはじめる。
ここに竜馬の本質――“枠を越える力”がよく表れています。
ただの浪士では終わらない男の進化が始まる、ターニングポイントの場面です。
③【京の混乱を見つめる竜馬の冷静なまなざし】
剣と血で物事を変えようとする同志たちに対して、竜馬は決して感情で動かない。
周囲の熱に呑まれず、「どうすれば実を取れるか」を考えている。
その“しなやかな反骨”が、とても現代的で、読みながら
「こういう柔らかい強さ、見習いたい」と思えるシーンです。
■ 最後に:この巻から“戦わない英雄”が生まれる
竜馬の行動が、ただの剣士から、話し合い、交渉、調整、そして国づくりへと移り変わっていく。
派手な戦闘はほとんどありません。でも、読み終えると「いちばん大事な戦いは、
刀じゃなくて“言葉と構想”なんだ」と気づきます。
私たち50代も、会社や家庭で“戦わずして通す道”に頭を悩ませることが多いですよね。
そんなときこそ、竜馬の姿がヒントになる気がします。
今夜の一杯の相棒に、ぜひどうぞ。
次巻では、いよいよ薩摩、長州、幕府――竜馬が本格的に歴史の軸に入っていきます。お楽しみに