江戸で得た広い視野、千葉道場での実戦経験、仲間たちとの出会い
それらが竜馬を“藩という枠の外”に目を向けさせていく。
坂本竜馬が江戸での剣術修行を終え、土佐に戻るところから始まります。
すでに竜馬は一介の剣士ではなく、「国の行く末」を自分の頭で考える、
少し先を見ようとする青年になっていました。
■ 土佐勤王党と武市半平太との再会
竜馬が土佐に戻ると、故郷は激しく変わっていました。攘夷(外国排斥)と尊王(天皇を中心に
据える)思想が若者の間で盛り上がり、脱藩志士や地下活動が活発になっていたのです。
この動きの中心にいたのが、かつての剣の同志・武市半平太。彼は「土佐勤王党」という
尊王攘夷の政治結社を立ち上げ、下士層の若者たちを巻き込んでいました。
武市は理想に燃える硬骨漢で、竜馬もその志に共鳴はするものの、
やや危うさも感じ取ります。
武市は土佐藩の体制を内部から変えるため、上士とつながる道を模索します。
だがそれは「下士の自由な行動を封じる危険な依存」であり、竜馬にはそれが
“逆に藩体制に取り込まれていくように”見えたのです。
この時、竜馬の心にはある決意が芽生えます。
■ 脱藩――すべてのしがらみを断ち切る
竜馬は、次第に「藩」という単位の限界を痛感していきます。
身分に縛られ、自由に動けない。どんなに志があっても、
藩という組織の中では動ける範囲が限られてしまう。
そんな中、竜馬はある夜、藩の監視をすり抜け、ついに脱藩を決行します。
これは、命を賭けた重大な決断。脱藩は当時、重罪。見つかれば死刑もあり得ます。
だが、竜馬には確信がありました。「これからの時代、藩に仕えて生きるのではなく、
日本という国そのもののために働くべきだ」と。彼は“土佐藩士・坂本竜馬”を捨て、
“一個の自由人”として新たな人生を歩み出したのです。
この脱藩シーンは、本作の大きな転換点であり、竜馬が「日本人」になる第一歩でもあります。
■ 京・江戸での新たな活動
脱藩した竜馬は、最初に京(京都)へ向かいます。幕末の京は、政治の中心であり、
陰謀と情報が飛び交う“火薬庫”のような場所。竜馬はここで、各藩の志士や浪士と
接触しながら、自らの立ち位置を探していきます。
また、旧知の千葉道場や、江戸の仲間たちとも再会。ここで、後の重要人物となる勝海舟との
出会いが近づいてきます(実際に出会うのは次巻)。この巻では、
「西洋を知ることで日本を守る」という考えに竜馬が強く影響を受け始める過程が描かれます。
竜馬は、ただ剣を振るうだけの浪士ではなく、武力ではなく理と交渉で日本を変えたいと
考えるようになります。ここに、のちの「海軍創設」「薩長同盟」「大政奉還」へとつながる
布石が静かに置かれていきます。
■ 人間・竜馬の魅力も光る
この第2巻では、「政治的な視点」だけでなく、竜馬という人間の魅力も随所に描かれます。
たとえば、姉・乙女への手紙には、脱藩したことへの罪悪感と、同時に未来への希望が
込められています。竜馬の人柄は、激しい時代にあってもどこか明るく、
柔らかく、人を引きつける力があります。
また、佐那との関係も、淡く切ない余韻を残しながら続きます。剣の稽古に打ち込む彼女と、
道を別れていく竜馬――2人の距離がそのまま「時代の進み方」を象徴しているかのようです。
■ まとめ
文庫第2巻は、「坂本竜馬が一介の脱藩浪士として、日本という国をどう見るか」を模索しはじめる巻です。
「藩を捨て、国を見る」
「剣ではなく、知恵で変える」
「尊王攘夷という情熱だけでなく、現実と交渉の中で動く」
――竜馬が“行動する思想家”として目覚めていく過程が、この巻の見どころです。
竜馬がどうして“剣を振るうヒーロー”から、“近代日本の調停者”へと変わっていくのか、
その根っこが見えてきます。
そして、「この先、彼はどう動くのか?」という興味が止まらなくなります。