時代小説初心者にとっても読みやすい。ストーリーの展開もスピーディー!佐伯泰英の代表作の第3巻。

●あらすじ・内容

小金井橋の死闘で小城藩の刺客を斃した小籐次だったが、己が生涯追われる身になったと悟り、怪我を押して甲斐国へと向かった。その道中、幕閣の女密偵おしんと知り合う。小籐次は、不正の臭いのする甲府勤番を探るというおしんに同道するが、甲府では驚くべき事態が進行していた。来島水軍流の剣が冴える、シリーズ第3弾!引用:文庫裏表紙より

●読みどころ

御鑓拝借から続く闘い
小籐次はシリーズ第1巻で我が主君の恥辱を雪ぐために西国四大名の行列を次々に襲い、御鑓拝借という騒ぎをおこしていた。小籐次は御鑓拝借で大名4家から旧主豊後森藩藩主の久留島通嘉に謝罪をさせることで無念をはらしていた。御鑓先も内々に大名4家に返してこの一連の騒ぎは収まっていたはずだった。しかし、この大名4家と子籐次との戦いは江戸では知らぬものはいないほど知れ渡ってしまっていた。表向きは手打ちは終わっているはずだが、一部の大名家の家臣はこのまま小籐次を生かしておけばお家の恥と、今度は小籐次が命を狙われることになる。次々に送り込まれる刺客に小籐次は来島水軍流の剣で立ち向かう。身体は小さいが並みの強さではない小籐次の剣技はスリルと緊張感がたまりません。

女密偵おしんの登場
追ってから逃れる旅の途中でおしんと出会う。この出会いは後々大きなところへとつながっていき、小籐次を色々な事件に巻き込まれていくようになる。お互いが助け合うことになっていく。おしんがもたらす騒動がこのシリーズを深く大きな物語にする一つのきっかけにもなっているので、これからもおしんとの関りからは目がはなせない。

市井の人々との暮らし
旅先で知り合った紙問屋久慈屋には主の久慈屋昌右衛門や大番頭の観右衛門をはじめ江戸の市井で暮らし始めた小籐次は世話になることになっていく。砥ぎ仕事を始めた小籐次が仕事先で知り合う野菜売りのうず、畳屋の梅五郎、曲げ物屋の万作、多くの人と知り合い、その中での暮らしには江戸の一住人としての幸せな小籐次がいる。そして何よりも小籐次の思い人、おりょうの存在が追手との戦いや暮らしのための仕事とは違うほんのり温かいものを感じさせてくれます。

●この本をおすすめする人

50代の働く人:小籐次の戦うすがた、恋する姿をみていると50代まだまだこれからと思います。

●著者プロフィール

佐伯泰英(さえき・やすひで)1942年、北九州市生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒。デビュー作『闘牛』をはじめ、滞在経験を活かしてスペインをテーマにした作品を発表。99年、時代小説に転向。「密命」シリーズを皮切りに次々と作品を発表して高い評価を受け、<文庫書き下ろし時代小説>という新たなジャンルを確立する。おもな著書に、「居眠り磐音」「酔いどれ小籐次」「新・酔いどれ小籐次」「密命」「吉原裏同心」「吉原裏同心抄」「夏目影二郎始末旅」「鎌倉河岸捕物控」「交代寄合伊那衆異聞」「古着屋総兵衛影始末」「新・古着屋総兵衛」「空也十番勝負青春篇」各シリーズなど多数。2018年、菊池寛賞受賞。引用:文庫本著者紹介より

●まとめ

御鑓拝借で大名家の刺客から狙われる身となった小籐次。身を守るために死闘を繰り広げる一面あり、江戸の町での平和な長屋暮らしもあり、小籐次の行くところから目がはなせない。そして、おりょうの存在もとても気になるところ。斬り合って戦う強い小籐次の姿もいいが、おりょうに懸想する小籐次の心の内がなんともいえなくいい。