●あらすじ・内容
江戸時代の介護を8つの連作短編で描いた時代小説。介護人としてがんばるお咲をみていると元気が出てきます。
嫁ぎ先を離縁され、「介抱人」として稼ぐお咲。百人百様のしたたかな年寄りたちに日々、人生の多くを教えられる。一方、妾奉公を繰り返し身勝手に生きてきた自分の母親を許すことが出来ない。そんな時「誰もが楽になれる介抱指南書」作りに協力を求められー長寿の町・江戸に生きる人間を描ききる傑作小説。解説・秋山香乃 引用:文庫裏表紙より
●おすすめどころ と 感想
8短編ごとの読みどころを紹介します。
銀の猫・・お咲は介抱人の仕事を通じていろいろな人と関りを持つことになるが、そこには家や人それぞれの事情や外からはわからない事がたくさんある。「本音はおもしろい」介護先のおじいさんがぽつりとつぶやく。おじいさんの介護をめぐって家族が喧嘩を始めてしまうが、おじいさんが望んだのは何だったのか。
隠居道楽・・お咲は今度は口うるさくて還暦すぎでも元気なおばあさんの「おぶん」の介抱ではなく付き添いを頼まれる。おぶんの道楽は清元と三味線、鼓踊り、俳諧、狂歌、書や茶の湯ときりがない。おぶんの道楽のわけは「あと一年しかないのさ・・・」だからだという。風邪一つひかない元気なおぶんが「あと一年しかんない」というほんとの理由はいったい・・・?おぶんの本当をきいたら胸が温かくなり、そして涙がでてきました・・・
福来雀(ふくらすずめ)・・「親子だからって放っておいても気持ちが通じ合うはずだと思うのは大間違いさ」そう言われるとその通りと思うけど、実はなかなか自分では気づかないなぁ。。。って思った。心にささったセリフでした。
春蘭・・今度、介抱する人は武家のご隠居。少し認知症が始まっている感じ。認知の症状が出た時にでてくる、ご隠居のもう一つの顔。本当の自分をおさえてこれまで生きてきたからなのか?人は誰でも人に言えないもう一つの顔をもって生きているのかもしれないんだな。
半化粧・・”介抱そのものはさほど難しい事じゃない。介抱する方とされる方がお互いが少しだけ笑いあうことができればそれでいい。でも、その「少しだけ笑いあうことの難しさ・・」そう、これは本当に難しいと思う、でもできたら本当にいいよね、幸せだよね!!
菊と秋刀魚・・「目をさましてまず目にするのは倅の顔なのだ。庄助がほんの少しでも笑みを浮かばせていたらたぶん、それだけでおきんは倖せなのではないか・・」介護をする息子と母の関係ってきっとこの通りなんだ。でも介護ってのは毎日のことで、いってみれば休みは無いわけで、きっと頑張ればがんばるほどしんどくなって、少しずつ笑顔が削られていくような気がする。難しいね、介護って。。親をおもって頑張るんだけど、気がついたら笑顔が少なくなってたなんてこともあるよね。だから少しだけがんばって、けっして頑張りすぎないようにした方がいいのかな。
狸寝入り・・聞こえてるけど、聞こえないふりをしてた方がいいこともある。うん、きっとある。狸寝入りが必要な時って時々あります。
今朝の春・・「笑いこそが何よりの薬か、お前と訊ねると、そうさ介抱する側、される側もそうさ。でも、それでも行き詰ったらどうするお前」と、その時は介抱人がいるさ。そう、そう、介抱は家族だけでできる事じゃない、その道の専門家をいつでも頼ればいいのさ。
●この本をおすすめする人
なかなか本音が言えなくてもんもんとしている人・・なかなか言えない事ってあるよね、でもやっぱり本音は時々は言った方がいいみたいだって。
癒されたい人・・めんどくさい人、頑固な人、色々な人がいるけど、根っからの悪い奴ってなかなかいない。人っていいよねって思える本です。
しょんぼりしてる人・・介抱人のお咲の姿をみてみて!きっと元気がでますよ。
●著者プロフィール:朝井まかて(あさい・まかて)
1959年大阪生まれ。甲南女子大学文学部卒業。2008年「実さえ花さえ』(のちに『花競べ」に改題)で小説現代長編新人賞奨励賞を受賞し作家デビュー。14年「恋歌」で直木賞、「阿蘭陀西鶴」で織田作之助賞、16年「眩(くらら)」で中山義秀文学賞、17年「福袋」で舟橋聖一文学賞、18年「雲上雲下』で中央公論文芸賞、『悪玉伝』」で司馬遼太郎賞、19年に大阪文化賞、20年『グッドバイ」で親鸞賞、21年「類」で芸術選奨文部科学大臣賞をそれぞれ受賞。他の著書に『藪医ふらここ堂」「残り者』『落陽」『最悪の将軍』『落花狼藉』『銀の猫』『輪舞曲』「ボタニカ」など。引用:文庫カバーより
●まとめ
江戸時代の介護って、今と違うようで、実は本質は違ってないんだな。結局人と人の関係なんだよな。人間関係、これは他人でも、家族でも生きている限りはついて離れないもの。そこには面倒で、理不尽で、やってられないようなことも沢山ある。でも最後はやっぱり人っていいなって、一人じゃないっていいなってなるんだなぁ。そんな気持ちにさせてくれる一冊だよ。
おすすめ!!ぜひ一度読んでみて!!