マンガのように読みやすい! 秀吉vs家康 小牧・長久手の戦い

●あらすじ・内容

本能寺の変で失ったのは、偉大すぎた主君、織田信長。喪失感に襲われる中、豊臣秀吉と徳川家康の運命はこの時から大きく動き始める。宿長の遺した「天下統一」という概念に気がついた時、戦巧者の武将二人はどんな戦いを繰り広げるのか。腹心の部下一秀吉には黒田官兵衛、家康には石川数正一に支えられ、知略を尽くし、命を賭けて睨み合う。天下人となるのは、秀吉か家康か。関ヶ原の戦いよりもずっと熱い小牧・長久手の戦いこそが、真の天下分け目の大一番!引用:文庫裏表紙より

●この本のおすすめ

信長がこの世に遺した「天下」という概念
戦国時代、誰もが自分の目に見える範囲の土地に固執して、隣の土地を奪ってやろう、自分の土地を隣のあいつには絶対渡さないように兵力を増強しようなどと、狭い視野で目先のこと、小さな領地の奪い合いに命を懸けて戦をしていた。その中で、信長だけはただ一人違う世界を見ていた。「天下」をとるためにはちっぽけな闘いをいくら続けてもきりがない。それよりも、京をおさえ将軍をおさえてこの国全体に号令をかけてしまう。この時代にこの発想を持ったことが信長の天才的なところだろう。そして信長が遺した「天下」という概念を思い出した家康はやがては天下をとることになるが、家康がいつどのようにして信長がこの世に遺したものを思い出したか?これもワクワクさせてくれるところの一つ。

戦ってはいけない相手とは?
小牧・長久手の戦いでは秀吉も家康もお互いに、お互いのことを戦えば負ける可能性が高いと考えていた。負けなかったとしても戦うことによって受ける被害が大きくなると予想していた。それでも、簡単に引くこともできない。決して相手にはそのことを知られてはならない、といろいろと策を弄する。家臣たちからは「あんな奴とっととやっつけてしまいましょう」と煽られる。特に血の気が多く、目の前の敵を倒すことしか考えない三河武士を抑えながら徳川家を守っていくのは家康も一苦労だったよう。お互いに戦わなければならない相手だが、同時に最も戦いたくない相手でもあるものと、いかに戦わずに終わらせるかと苦悩する秀吉と家康の心理、本音がとてもおもしろく描かれている。

「石川数正」・・・歴史上の謎とされている石川数正の出奔。ここをどのように解釈して、どう描くかが、この小説のおもしろさの一つになっている。重要な役割をもっていて、数正の出奔が実は秀吉と家康の戦いの最後の一手となったようだ。謎ではあるが数正の出奔がなければ戦国時代のあと秀吉の天下、次に徳川の天下という日本の歴史の流れは大きく変わっていただろう。徳川家を滅ぼすのではなく羽柴家に取り込むと決めた秀吉が背中で聞いた官兵衛のつぶやいた一言がこれだった「石川数正殿に、完全にしてやられましたな・・・」

●この本をおすすめする人

戦国時代が好きな人:秀吉と家康の戦いがおもしろい。その時のこの二人の心のつぶやきがとてもおもしろい。

●著者プロフィール

1978年、埼玉県生まれ。2020年「松の廊下でつかまえて」で第3回歴史文芸賞最優秀賞を受賞(「あの日、松の廊下で」に改題し文庫化)。著書に、「討ち入りたくない内蔵助」「桶狭間で死ぬ義元」などがある。引用:文庫本カバーより

●まとめ

白蔵盈太さんの描く時代小説は歴史上の人物がとても身近に感じられるのが魅力。特に「関ケ原よりも熱く」は秀吉と家康の「独白」でつづられているのでこの二人が何を考え、どう判断して、決断していったのかという心の中がすべてさらけ出されている感じです。もちろん小説ですので、事実がどうだったかは知る由もありませんが、なるほどこんな歴史だったのか-と思い込んで読んでみるのもおすすめです。