まるまるの毬はこんな本:ほのぼのとした雰囲気をかもしだしながら涙も感動ありドキドキもあり読後の満足感は最高です!
親子三代で菓子を商う「南星屋」は、売り切りご免の繁盛店。武家の身分を捨てて職人となった治兵衛を主に、出戻り娘のお永とひと粒種の看板娘、お君が切り盛りするこの店には、他人には言えぬ秘密があった。愛嬌があふれ、揺るぎない人の心の温かさを描いた、読み味絶品の時代小説。吉川英治文学新人賞受賞作。 引用元:文庫本裏表紙より
感想とおすすめどころ
この本は江戸の麹町にある人気の菓子店南星屋が舞台の7編の連作短編です。
これから短編ごとのおすすめどころを紹介していきます。
1,カスドース
治兵衛が作った「印籠カステラ」が平戸藩松浦家で門外不出とされるお留菓子のカスドースだと疑いをかけられ、治兵衛は平戸藩より訴えられてします。疑いははらされるのか。治兵衛の弟の相典寺の住職・石海とお君の掛け合いも軽快で引き込まれます。
2,若みどり
南星屋に武家の子供の翠之介が弟子になりたいといってやってくる。はじめは断る治兵衛も翠之介に押し切られる形で翠之介を受けれることになる。妹においしいお菓子を食べさせてあげたいという妹思いで真面目で一生懸命な翠之介を治兵衛、お永、お君もかわいがり自然と受け入れていくようになる。翠之介が弟子なりたかった本当の理由は?
3,まるまるの毬(いが)
治兵衛はお君の思い出話を、ごく短く説いた。「丸くて白い団子のような、まあるい気持ちでいてほしいと、そう願ったのはおそら、おれだ。だからお永は毬を表に出すことができず、長いこと苦しんできたんだ」引用:本文より
お永は治兵衛が望むようにずっといい娘、いい母親でいた。そんなお永でもきれいな白くてまあるい気持ちでいつもいられる訳ではない。誰だって人には言えない悩みの一つや二つは抱えているもので、ただけどいつの間にか治兵衛もお永自身もいつもまあるい気持ちでいることが当たり前と思ってしまっていた。いつもと様子が違っていたお永は毬を少しは表に出すことでお永は楽になれたのか?
4,大鶉(おおうずら)
「申し訳、ありません・・・・・・」五郎の詫び言なぞ、ついぞきいたためしがない。兄の気遣いを、弟は正確に察していたのだろう。引用:本文より
弟の気持ちを察し弟を木の上から助けた幼い頃の治兵衛。この恩を五郎は忘れることはなかった。そして数年後に自分の生き方をかけて返すことになる。お永はお君にはわからない治兵衛、石海兄弟の絆があった。
5,梅枝(うめがえ)
「あのときはおれも往生した。終いには泣きやんでくれと頼み込む始末でな。だが、涙をこぼしながらお君が言ったんだ。これは己のためでなく(親父殿と母御のための涙だとな」「あっしと、お永の?」「そうだ。ふたりは決して泣きも怒りもしない。文句は一切腹の内に呑み込んで、黙って堪える性分だからと、そう言ってな」引用:本文より
治兵衛、お永、お君たちにとって辛く腹立たしい事があった時の事。お君はいつも我慢ばかりの母と祖父の代わりに涙をながしたという。そんな涙の流し方もあるんだ、お君のやさしさにぐっときました。
6,松の風
「あたしはね、治兵衛さん、あんたとずっとくらべられてきた。それこそ若いころからずっとだ。」と大店の菓子屋に育った為右衛門は治兵衛にに言う。大店の為右衛門は昔から小さな菓子屋の親父といつも比べられ自尊心を砕かれていた。それが元で南星屋を目の敵にしていた。治兵衛からするとただの逆恨みでしかない。人は何も悪いことはしてなくても知らぬ間に人を傷つけるという事があるものだ。
7,南天月(なんてんづき)
松浦家家臣河路金吾とお君の縁談が思わぬことからなくなってしまうことに。治兵衛の他人には言えない秘密がどうやらもとになっているらしい。治兵衛、お永、お君家族の幸せはどうなるのか?ハラハラドキドキさせられますが、最後はすっきりと気持ちよく終わってくれます。
この本をおすすめする人
兄弟思いの人におすすめ。治兵衛と石海兄弟の絆が物語の一つの重要なキーになっています。
お菓子好きな人におすすめ。おいしそうなお菓子が短編ごとにでてきます。江戸時代にもあったお菓子を創造すのも楽しいものです。
少し寂しい人におすすめ。お互いを思いやる人がたくさん出てきてます。心が温かくなる時代小説です。
著者プロフィール 西條奈加(さいじょう・なか)
1964年北海道生まれ。2005年「金春屋ゴメス」で第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。12年「連薬の雪」で第18回中山義秀文学賞を受賞。15年「まるまるの様」で第36回吉川英治文学新人賞を受賞、’21年『心淋し川」で第164回直木賞を受賞した。の作品に「曲亭の家」「六つの村を越えて選をなびかせる者」など多数。文庫本カバーより引用
●まとめ
おいしそうなお菓子がたくさん出てくるのも楽しいし、小さな菓子屋「南星屋」をめぐって、平戸藩松浦家、大店菓子屋などの人々とのかかわりが物語に深みを与えてくれてます。ワクワクドキドキ感もあり、最後は気持ちよくさせてくれる時代小説でした。