笑いと涙の大人気時代小説。舞台は本所「おけら長屋」。
胸にささる言葉がたくさんちりばめられてます。

●あらすじ・内容(どんな本?)

笑いと涙の大人気時代小説シリーズ!松吉の義姉、お律が「おけら長屋」にやってきた。
二十両を奪われたという若者を助けたお律は、虎の子の大金を貸してしまうが、
「まつあね」。長屋の住人が娘のように思っているお糸の出産がいよいよ近づき、みな
落ち着かない。辰次や金太らは安産祈願として、大吉のおみくじをお糸に贈ろうと
するが、思いがけないことが起こり・・おみくじ」など、傑作四を収録。
文庫書き下ろし。 引用:文庫裏表紙より

●読みどころ

傑作4編のそれぞれのおすすめ読みどころやこころにささった言葉を紹介していきます。

その壱 まつあね・・生き馬の目を抜くと言わる大都会・江戸にでてきた松吉の義姉お律。
田舎で人を疑うことを知らずに生きてきたお律の素朴で優しさあふれた人です。偶然助けた見知らぬ
若者に二十両もの大金を貸そうとするお律の言葉に人を信じる温かさを感じました。
「証文なんて要らねえ。証文があったって、返す気のない人は返さねえでしょう。証文がなくても返す
人は返します。本当の証文というのは心の中にある。あたしはそう思うよ。さあ、中身をあらためて・」

はたして、人のいいお律はだまされていたのか・・・

その弐 かたまゆ・・黒石藩藩主の高宗は鉄斎の元主君であり、おけら長屋では貧乏旗本の三男坊
黒田三十郎という事で通っていた。そして、酔うと殿様言葉になってしまう高宗のことを万松は
「殿様みてえな喋り方だな、あだ名は殿様にしやしょう」と言ってそれ以来ずっとあだ名として「殿様」
と呼ばれていた。ある時、高宗には万松に手を貸してもらわなければならい事が起きてしまい、やむを
得ず自身の正体を明かすことになる。その時の万松が粋でカッコいいんです。
「そんなこたあ、とっくに知ってやしたぜ。なあ、松ちゃん」「ああ。だから何だってんですかい。
おれたちにとっちゃ、本物の殿様だろうが、偽物の殿様だろうがどうでもいいんで。”好き”か
”嫌え”かってことだけでさあ。おれたちは殿様のことが大好きなんで。
それでいいんですよね、鉄斎の旦那」

正体を明かしてまで、なしとげたかった高宗の念願はかなったのか???

その参 きれかけ・・おけら長屋では万松の妹分ともいえるお糸の幼なじみのお菜美ちゃんは
家出をして長く行方不明になっていたが、ある日突然身ごもった姿で実家に戻っていた。訳を一切
はなさないお菜美に両親もどうすることもできずにいた。そこで、おけら長屋が一肌脱ぐことに
なり、万松、鉄斎、お染、そしてお満も動いてお菜美の本当の悩みをほぐそうとする。人のために
動いているうちにお満が自分の本当の気持ちに気づき、素直になった時の言葉に涙しました。

「仲違いをしていたおとっつぁんと、仲直りをさせてくれたのは万造さんだよ。私が病で死に
かけたとき、お店から暇を出される覚悟で、筑波まで走ってくれたのも万造さん。豪右衛門さん
が、この世に思いを残すことなく旅立てたのも万造さんのおかげだもの。だから、万造さんが
近くにいてくれれば、信じたことに向かって突き進むことができそうな気がするの。
なんだか、万造さんに甘えっぱなしだね」

その四 おみくじ・・お糸が妊娠。もすぐ生まれるというところでお糸本人よりも周りが
盛り上がりすぎて、それをお糸がプレッシャーに感じてしまう。ちゃんと産めるだろうか
と不安ばかりが募ってしまいお糸は悩んでしまう。お糸を落ち着かせようとお染さんが
かけてあげた言葉が胸にきました。

「結局は、島田さんや、万造さんや、松吉さんの言う通りになっちゃった。
心配して損しちゃったよ。お糸ちゃん、世の中は丸くできてるんだよ。
角がなくて、あちこちに転がって。でも、最後には丸く収まるんだよ」

「世の中は丸くできている・・・」で落ち着いたお糸は
無事元気な赤ちゃんを産むことができたのか??

●こんな人におすすめ

人が信じられなくなった人・・・ちゃんと人を見る目があれば、その自分を信じて
人間関係に疲れた人・・・いろんな人間関係があるけど、結局はその人が好きか嫌いかってこと
でいいみたい

●著者プロフィール

1957年、東京都目黒区生まれ。墨田区本所育ち。演芸の台本執筆や演出、週刊誌のコラム連載、
ものかき塾での講師まで精力的に活動する。日本文芸家クラブ会員。
著書に『下町のオキテ」(講談社文庫)、『下町呑んだくれグルメ道」(河出文庫)、
『超入門!江戸を楽しむ古典落語』(PHP文庫)など多数。2012年、「スプラッシュマンション」
(PHP研究所)で小説家デビュー。文庫書き下ろし時代小説「本所おけら長屋」(PHP文芸文庫)が
好評を博し、人気シリーズとなる。引用:文庫著者紹介より