四つの短編それぞれに四季を感じさせる風情と、人間味あふれる物語が詰まっています。

◆あらすじ・内容(どんな本?)

江戸は本所沢町の「おけら長屋」に住む浪人・鉄斎のもとへ、一人の若き武芸者が
訪れ、真剣での立ち合いを求めてきた。いったい何のために勝負を挑んできたのか。
そして、鉄斎の過去を知った長屋の面々は・・・・・・「ふゆどり」。勤め先の店
で、険悪な関係の嫁と姑に振り回される万造。ある日、色白の優男が店にやってき
たことをきっかけに、嫁姑の争いは激しさを増していき…・「あきなす」など、
傑作四備を収録。文庫書き下ろし。引用:文庫裏表紙より

◆読みどころ

江戸の人情を味わう一冊——『本所おけら長屋15巻』各話の見どころを1話ずつ紹介

第一話「はるざれ」——春風とともにやってくる出会いと別れ

「はるざれ」は、新しい季節の始まりを象徴するような一編です。本所の長屋にやってきた新顔が、
住人たちの暮らしに思わぬ波紋を広げます。
春特有の、出会いと別れの交錯が丁寧に描かれ、読み進めるうちに自然と心が温かくなります。

もう一つの見どころは、笑いと涙が同居する物語展開。長屋の仲間たちが見せる軽妙な掛け合いと、
人情がにじむ結末の対比が絶妙で、シリーズらしさが存分に楽しめます。

第二話「なつぜみ」——せみ時雨のなかに響く心の叫び

夏を背景に展開する「なつぜみ」は、物語の冒頭から熱気とともに緊張感が高まる一作です。
事件が長屋の住人たちに影を落とし、日常にひそむ人間の複雑な感情が浮き彫りになります。

登場人物たちの“裏と表”の描き方。単純な勧善懲悪ではない、江戸の人情と人間の弱さを
あわせ持った描写に、深い余韻を感じるでしょう。時代小説らしい“機微”が光る一話です。

第三話「あきなす」——実りの秋に見つけた心の豊かさ

秋の風情を感じさせる「あきなす」では、何気ない日常の一コマから、登場人物たちの心の
成長が静かに描かれます。秋茄子にまつわる小さな出来事が、やがて心に残る大きな物語へ
と育っていきます。

特に印象的なのは、普段目立たない人物に焦点が当たり、その内に秘めた強さが少しずつ明
らかになっていく過程。読者の心にも、しみじみとした余韻が残ること間違いなしです。
秋らしい感傷を求める読書にぴったりの一話です。

第四話「ふゆどり」——寒さのなかでこそ感じる人のぬくもり

「ふゆどり」は、長屋シリーズの魅力を集約したような一編。冬の寒さが身にしみる中、
住人たちの助け合いと絆が胸を打ちます。時にぶつかり合いながらも支え合う“家族のような
他人”の関係に、ほろりと涙がこぼれるかもしれません。

また、シリーズを追ってきた読者にとっては、これまでの積み重ねが生きる感動の場面が
いくつも用意されています。長く読み続けてきたからこそ味わえる深みもあり、
読後感の良さは随一です。

◆こんな人におすすめ

時代小説初心者にも時代小説ファンにもおすすめです。

◆著者プロフィール

畠山健二(はたけやま けんじ)
1957年、東京都目黒区生まれ。墨田区本所育ち。演芸の台本執筆や演出、
週刊誌のコラム連載、ものかき塾での講師まで精力的に活動する。日本
文芸家クラブ会員。著書に『下町のオキテ」(講談社文庫)、『下町呑
んだくれグルメ道」(河出文庫)、『超入門!江戸を楽しむ古典落語』
(PHP文庫)など多数。2012年、「スプラッシュマンション」(PHP研究所)
で小説家デビュー。文庫書き下ろし時代小説「本所おけら長屋」(PHP文芸
文庫)が好評を博し、人気シリーズとなる。引用:文庫著者紹介より

◆まとめ

『本所おけら長屋15巻』は時代小説の魅力が詰まった一冊
四季折々の情景を背景に、それぞれ異なるテーマと感情が描かれる本巻は、
時代小説が初めての方にも最適です。江戸の人々の暮らしや人情に触れることで、
現代に通じる“人の温かさ”を再発見できるでしょう。

『本所おけら長屋』シリーズは、気軽に読めるのに、読後には心がじんわり温かくなる。
そんな時代小説の醍醐味を、ぜひ味わってみてください。