江戸の庶民の暮らしと温かい人間模様を描いた人気シリーズ、「居酒屋ぜんや」。
悲喜こもごもの物語が描かれ、心がじんわりとあたためられます。
時代小説の枠に収まらず、人生の機微や、食べることの尊さまで伝えてくれる、
“大人の癒やし小説”!
●あらすじ・内容(どんな本?)
居酒屋「ぜんや」の馴染み客・升川屋喜兵衛の嫁・志乃が子を宿して、もう七月。
「ぜんや」の女将・お妙は、喜兵衛から近ごろ嫁姑の関係がぎくしゃくしていると聞き
、志乃を励ましにいくことになった。心配性の亭主に外出を止められ、姑には嫁いびり
をされているとこぼしてしまう志乃だったが、お妙の特製手鞠ずしを食べて盛り上がり・。
不安や迷いを抱えている人々も、お妙の心を込めた料理で笑顔になる。
丁寧で美味しい料理と共に、人の心の機微を濃やかに描く傑作人情小説第三巻。
引用:文庫裏表紙
◆読みどころ
読みどころ①:優しさと葛藤が交差する人間模様
『ころころ手毬ずし』では、居酒屋「ぜんや」を舞台に、新たな登場人物や常連たちの過去が丁寧に
描かれます。中でも今回は、かつて武家に仕えていたという訳ありの男が“ぜんや”の敷居をまた
ぎます。人は皆、それぞれに言えぬ過去や悩みを抱えて生きています。
派手さはないものの、胸に長く残る温もりがあります。
人と人との距離感を描くことに長けた坂井さんだからこそ描ける、
静かで深い江戸人情を味わえます。
読みどころ②:料理がつなぐ心と心
「ころころ手毬ずし」は“ぜんや”を訪れる客たちの心をほどき、癒す役割を果たす
「やさしさの象徴」。小ぶりで彩りも愛らしい手毬ずし。少しずつ、いろいろな味を楽しめる
その一皿には、どんな人でも食べやすいようにと、おたまの細やかな気遣いが詰まっています。
料理は、言葉にできない想いを伝える手段として描かれています。
嫁、姑のすれ違い——そんなほつれた関係を「手毬ずし」を通じて優しくほどけていくのです。
坂井希久子さんの真骨頂ともいえる「食と物語の融合」が、今作でも見事に発揮されています。
読みどころ③:江戸という時代の“今”を感じる
時代小説というと、少し敷居が高いと感じる方もいるかもしれません。
『居酒屋ぜんや』は、現代にも通じる人間模様が、江戸という舞台に自然にのせられています。
本作でも、職業や身分による葛藤、家族との距離、人生の転機といったテーマが扱われており、
現代の我々にとっても“自分ごと”として「あるある」を感じながら読み進められるます。
◆こんな人におすすめ!
①心にしみる物語が好きな方
人の優しさやつながりに触れたい方、涙腺がゆるむ話を探している方にはぴったり。
穏やかな読後感が残ります。
②グルメ描写を楽しみたい方
料理を通して描かれる感情や人間関係に心惹かれる方、美味しそうな食事描写が好きな方には
たまらない一冊です。
③時代小説初心者の方
難しい言葉や歴史背景に縛られず、やさしい語り口で江戸の暮らしを知ることができます。
現代小説の延長で楽しめる感覚です。
●著者プロフィール
1977年和歌山県生まれ。同志社女子大学学芸学部日本語日本文学科卒業。会社員を経て、
プ口作家を志し上京。小説講座での研鑽を経て、2008年、「虫のいどころ」で第88回
オール讀物新人賞を受賞。2015年、『ヒーローインタビュー』が『本の雑誌増刊
おすすめ文庫王国2016』のエンターテインメント部門第1位に選ばれる。著書に
『ハーレーじじいの背中』『ウィメンズマラソン』『虹猫喫茶店』『ただいまが、
聞こえない』『泣いたらアカンで通天閣』『羊くんと踊れば』『恋するあずさ号』
『こじれたふたり』などがある。 引用:文庫カバーより
◆まとめ:読めば“ぜんや”に帰りたくなる
坂井希久子さんの『居酒屋ぜんや ころころ手毬ずし』は、江戸の片隅にある小さな居酒屋を舞台に
人と人とが静かに心を通わせていく物語です。
優しいけれど、決して甘くない。静けさの中に力強さを秘めた人間ドラマと、食の描写が織りなす
物語は、忙しい現代人にとっての“心の居場所”となるでしょう。
一話一話が独立して楽しめる連作形式なので、初めてシリーズを手に取る方でも安心して読めます。
ぜひ、心をほどくひとときに、この本を手に取ってみてください。
江戸の灯がともる夜、あなたも“ぜんや”の暖簾をくぐってみませんか?
そして、ぜひ常連さんの一人にどうぞ。