あの“犬公方”が、実は、心に刺さるヒーローだった!?
◆あらすじ・内容(どんな本?)
生類憐みの令によって「大公方」の悪名が今に語り継がれる五代将軍・徳川網吉。
その真の人間像、将軍夫妻の覚悟と煩悶に迫る。民を「政の本」とし、泰平の世を
実現せんと改革を断行。抵抗勢力を一掃、生きとし生けるものの命を尊重せよと
天下に号令するも、諸藩の紛争に赤穂浪士の討ち入り、大地震と困難が押し寄せ、
そして富士山が噴火ー。
歴史上の人物を鮮烈に描いた、瞠目の歴史長編小説。引用:文庫裏表紙より
◆読みどころ
①「犬公方」の裏にあった覚悟と孤独
江戸幕府五代将軍・徳川綱吉の一代記。歴史の授業では「失政の代名詞」として語られがちな彼
ですが、朝井まかてはそこに真っ向から挑んでいます。綱吉は、ただ動物好きだったわけじゃ
ない。彼が推し進めた「生類憐みの令」には、「命を大事にする社会を作りたい」という、強く
て優しい信念がありました。だけど、それが当時の価値観とは合わない。理解されない。
反発される。それでも「将軍として、誰かがやらねばならぬ」と進み続ける綱吉の姿は、まさに
孤高のリーダー。現代の職場でも、立場上“嫌われ役”を買って出ることってありますよね。
綱吉の孤独と覚悟に、思わず自分を重ねてしまいます。
② 政治エンタメとしても読みごたえ抜群!
単なる人物伝ではありません。れっきとした「幕府の中枢で繰り広げられる政治ドラマ」としても
超一級。将軍の座に就くまでの葛藤、大老たちとの駆け引き、母・桂昌院との親子関係など、読み
どころは盛りだくさん。綱吉の理想を「暴走」と見るか、「信念」と見るかで、周囲の人々の対応
が変わっていく。その描写がまたリアルで、つい引き込まれてしまいます。
時代背景や政治のしくみに詳しくなくても大丈夫。登場人物たちのやり取りがスピーディーで、
会話も巧みに書かれているので、難しさを感じることなく物語の中に入っていけます。
③ 「レッテル」で人を決めつけない視点が学べる
何かと「ラベリング」が多いこの時代。「あの人は〇〇系」「この仕事は向いてない」といった
評価が飛び交う中で、本書は大切なことを教えてくれます。
綱吉は、時代に合わない理想を掲げたことで、長く「ダメ将軍」扱いされてきました。でも、実は
それこそが彼のすごさであり、時代の“未来”を先取りしていたとも言える。
一見的外れに見える行動の裏に、深い考えや切実な思いがある──そんなことに気づかせてくれる
一冊です。読み終わった時、職場の“ちょっと変わったあの人”が違って見えるかもしれません。
◆こんな人におすすめ
・歴史は好きだけど、いわゆる“偉人の武勇伝”よりも、人間ドラマを楽しみたい方
・最近ちょっと仕事で「報われないなぁ…」と感じている方
・自分の信念と、周囲とのズレにモヤモヤしている方
ひとつでも当てはまったら、『最悪の将軍』はきっと刺さります。
将軍が抱えていた葛藤や理想は、案外、今を生きる自分たちに近いものかもしれません。
◆著者プロフィール:朝井まかて
1959年大阪府生まれ。甲南女子大学文学部卒業。2008年、第3回小説現代長編新人賞
奨励賞を受賞し単行本『実さえ花さえ』(のち文庫『花競べ向嶋なずな屋繁盛記』)
でデビュー。14年『恋歌』で第150回直木賞、『阿蘭陀西鶴」で第31回織田作之助賞、
16年『眩(くらら)」で第22回中山義秀文学賞、17年『福袋』で第11回舟橋聖一文学賞、
18年『雲上雲下』で第13回中央公論文芸賞、19年『悪玉伝』で第22回司馬遼太郎賞、
同年、大阪文化賞を受賞。他に『落陽」銀の猫』『草々不一』『落花狼籍』など著書多数
引用:文庫カバーより
◆まとめ
「最悪」とは、最も人間らしいということかもしれない。
朝井まかての『最悪の将軍』は、これまでの綱吉像をガラリと塗り替えてくれる作品です。
「なぜそれを選んだのか」「何を信じていたのか」。その問いに丁寧に向き合ったからこそ、
物語には深い共感が生まれます。レッテルでは人は語れない。そんな当たり前のことを、
歴史を通して改めて気づかせてくれる一冊。
ちょっと疲れたとき、誰かに誤解されたとき、そっと手に取ってみたい一冊。
きっと、共感できる事多々あり、勇気をもらえると思います。