万造はいつもケンカばかりしている栄太郎の婚活を笑いものにして楽しんでいたのだが、、、、(とりもち)

松吉の知られざる過去が明かになることに。
過去に触れることが松吉自身の背中を未来に向かって押すことになる(ゆうぐれ)

●あらすじ・内容(どんな本?)

江戸は本所亀沢町にある貧乏長屋には、万造、松吉の「万松」コンビを筆頭に、左官の
八五郎・お里夫婦や後家のお染、浪人の島田鉄斎ら個性豊かな面々が住んでいて・・・
万造のけんか友達である栄太郎の”婚活”を描く「とりもち」や、江戸の”スキャンダル”
を面白おかしく書き立てる読売をめぐる騒動「よみうり」、そして初めて明かされる
松吉の過去に迫った「ゆうぐれ」など、笑いと感動の傑作四編を収録。文庫書き下ろし。
引用:文庫裏表紙より

●読みどころ

とりもち・・・万造と犬猿の仲の栄太郎が婚活をする。栄太郎は万造と仲は悪いが、江戸っ子としての
気質は万造と似たところがある。婚活を通じて栄太郎は本当の自分の気持ちに気づいていく。
万造は栄太郎のことを始めは笑いものにしていたが、自分の気持ちに気づいていく栄太郎の姿をみて
万造はある行動にでる。

よみうり・・・江戸のスキャンダルを書いた読売を売ってかせぐ春助。そんな読売を売っていると
とうとう読売が原因で人が死んでしまうことになる。書いた春助にも、死んでしまったお牧にも
明かされていない理由があった。

おいらく・・・おけら長屋の大家、徳兵衛と相模屋の隠居、与兵衛と薬種問屋木田屋の主、木田屋
宗右衛門の3人は商いの関りもなく何のしがらみもない気の置けない仲間だ。この3人はひょんなこと
から吉原に繰り出すことなったのだが。そこで宗右衛門は思わぬ人と出会ってしまう。

ゆうぐれ・・・松吉の兄の死をきっかけに松吉の知られざる過去が明らかになる。松吉の悲しい
幼少時代、母親代わりの義姉の存在など、感動と涙の一遍。

名シーン①・・・ケンカに負けた少年に栄太郎はこんな言葉をかけてあげる。
「喧嘩なんてえのは勝っても負けてもいいいんでえ。逃げなけりゃよ。逃げることを
覚えちまうと、どんなことからも逃げるようになっちまうからよ」

名セリフ②・・・人のスキャンダル記事で稼ぐ春助のことが気に入らない八五郎は言わずにのはいられなかった。
「物事の良し悪しを粋か野暮かなんでえ。それが江戸っ子ってもんだ。その物差しからすりゃ、
おめえさんのやっていることたあ野暮の骨頂だぜ」

名シーン③・・・松吉がいなくなる?おけら長屋の危機か?
「世間の人たちはね、万松の二人が騒動を起こして、引っ掻き回して、それに八五郎さんが
乗っかって、大家さんが怒って、お染さんや島田の旦那が丸く収めるなんて思ってるけど、
それは逆。万松がいなければ、八五郎さんは乗ることができない。大家さんも怒ることが
できない。お染さんや島田の旦那も収めることができないんだよ。その万松の片割れがい
なくなったら、おけら長屋じゃなくなっちゃうんだよ」

名セリフ④・・・「身内というものは諸刃の剣かもしれんな。支えにもなるが重荷にもなる、親兄弟がいる
のはうらやましいと思うが、私にはこの長屋がちょうどいい。身内だから助けなければならない、身内
だから助けなければ咎めらる。そんな縛りがない。他人を助けるのは本当の気持ちがなければできんからな」

●こんな人におすすめ

人間関係に疲れた人:おけら長屋の住民を見てみると色んな事を気にするのがばかばかしくなります。
癒されたい人:おけら長屋は損得抜きに人にやさしい。そんなおけら長屋の優しに癒されるでしょう。

●著者プロフィール 畠山健二(はたけやま けんじ)

1957年、東京都目黒区生まれ。墨田区本所育ち。演芸の台本執筆や演出、週刊誌のコラム連載、
ものかき塾での講師まで精力的に活動する。日本文芸家クラブ会員。
著書に『下町のオキテ」(講談社文庫)、『下町呑んだくれグルメ道」(河出文庫)、
『超入門!江戸を楽しむ古典落語』(PHP文庫)など多数。2012年、「スプラッシュマンション」
(PHP研究所)で小説家デビュー。文庫書き下ろし時代小説「本所おけら長屋」(PHP文芸文庫)が
好評を博し、人気シリーズとなる。引用:文庫著者紹介より