厳しく賢い兄と天才の弟をもってしまった、

ごくごく普通の男・範頼の苦悩が思いのほかおもしろい!!

●あらすじ・内容

やっぱり鎌倉なんか、来るんじゃなかった。蒲御厨でひっそりと暮らしていた範頼は、命の危機を感じて頼朝のもとへ馳せ参じた。だが、会って早々、兄の怒りに触れ言葉も出ない。ちくしょう、怖すぎるだろ、この兄さま。そんな時、助け舟を出してくれたのが、弟の義経だった。打倒平家に燃え勇猛果敢に切り込んでいく弟を横目に、兄への報告を怠らず、日々の兵糧を気にする自分の、なんと情けないことか。誰もが畏れる知略家の頼朝と戦に関しては天賦の才を持つ義経。二人の天才に挟まれた、地味だが堅実で非情になれない男、源範頼の生きる道。引用:裏表紙より

●読みどころ

凡人総大将・範頼
裏の裏まで読み、次の次の手まで考えている賢くて恐ろしい兄頼朝、そして天真爛漫で経験と自身の感覚で戦を生き抜いている弟・義経、この二人に挟まれた凡人・範頼。彼の生きざまは現代のわれわれ凡人には身近に感じ共感できるはずです。特に戦の才能や経験がるわけでもなく頼朝の弟ということで平家追討軍の総大将にされてしまった気の毒な源範頼。一人悩みながら、それでも必死に頼朝の期待に応えようとしてか、あるいは頼朝にだけは絶対逆らえないという恐怖心がこの男を動かしていたのかは読み手が決めればいいことかもしれませんが、ともかく最後は源平合戦に勝ちを治めた総大将となるのです。戦でめぼしい活躍をしたわけではないが、総大将を最後まで務めあげた範頼の心のうちの吐露は同情と共感で一杯になります。

義経はやはり魅力的
華やか戦上手のイメージが強い義経ですが、そのイメージに加えて、とびぬけるくらいの天真爛漫な性格で描かれてます。誰からも好かれるだろう素直な子供のような無邪気な言動は思わずふふっと微笑んでしまいます。
そんな義経がなぜ最後は兄に討たれるという悲しい結末を迎えなければいけなかったのか?
何も悪いことはしてないと信じて疑わなかった義経と頼朝の間には、いつの間にどのようにして溝ができてしまったのだろう?
本当はだれも悪くないのに・・・

凡人総大将を支えた人・天野遠影
頼朝との初対面でうろたえる事しかできず、おろおろしていた範頼のよき理解者であり相談相手となった天野遠影。
最初のアドバイスは現在社会でも当たり前のように言われている「報連相」が一番大事ということでした。このアドバイスがなかったら範頼は戦でどうなっていたかわかりませんし、源平合戦の勝ち負けもどうなっていたかわからない程、重要なものだったと後にわかります。天野遠影は、義経の死を悲しみ、自分を責めて泣いている範頼に「少なくとも私は、範頼殿の下で働くことができて、よかったと思っていますよ」と声をかけます。それば天野殿のやさしい気づかいだと範頼は思ったようだが、本当のところはどうだったのでしょう

●こんな人におすすめ

自分をごく平凡な人間と思っている人:凡人代表ともいえる範頼さんの仕事ぶり参考になります

●著者プロフィール

1978年埼玉県生まれの一男一女の父。メーカー勤務のかたわら、2015年頃から本格的に小説を書き始める。2019年、Nirone名義で執筆した小説「わたしのイクメンブログ」が漫画化(全3巻・完結)。
2020年「松の廊下でつかまえて」で第3回歴史文芸賞最優秀賞を受賞(「あの日、松の廊下で」に改題し文庫化)。

引用:文庫著者紹介より