●あらすじ・内容

引退を決意した地本問屋・丸屋小兵衛の元を一人の若い男が訪れ、「一緒に世間をひっくり返しましよう」と、破天荒な申し出をする。彼こそが、飛ぶ鳥を落とす勢いの版売・蔦屋重三郎だった。気鋭の戯作者や絵師を起用し、常に新しいものを追い求めるが、時代の流れは予期せぬ方向へー。蔦屋の波瀾万丈人生を描く傑作歴史長編!引用:文庫カバーより

蔦屋重三郎の波乱万丈の半生を相棒であり相談相手、もう一人の主人公、丸屋小兵衛の目線で見ることができる。

●どんな本?(おすすめどころ・感想)

重三郎と小兵衛、それに才能ある絵師勇助(後の歌麿)のチームが江戸の出版界で活躍し世に出ていく。それぞれがぶつかり合いながら仕事を進めていく。チームで仕事を進めていくお仕事小説でもある。3者のそれぞれの関わり合いからおすすめしていきます。

重三郎と小兵衛:親子ほどの年の差の二人だが、雇い主は重三郎。重三郎はイケイケの出版プロデューサー。重三郎のペースに小兵衛は徐々に引き込まれていく。”出会ってから半年ほど、小兵衛は連日のように吉原に引っ張られた。・・・吉原では色んな人に出会った。誰一人として名前をしらない。顔見知りにも拘わらずあだ名すらしらない人がいる。『吉原での出会いなんてそんなもんです』と重三郎は言うが、そうした吉原の流儀に馴染むことが、いつまでもできずにいた。”

小兵衛と勇助:二人が初対面の時、勇助を雇うように重三郎に話してみようと初対面の小兵衛が言うと。「おう、頼むぜ、おっさん」「おっさんじゃない、丸屋小兵衛だ」「おう分かった。丸屋のおっさん」まるでわかってないじゃないか、と怒る小兵衛だがここは小兵衛がこらえた。こんなところから二人の関係ははじまる。自由人の勇助は年など関係なくだれにでも同じように話ができる。その生意気ともいえる物言いに最初はとまどう小兵衛だが、あえてそのままに自由にさせ、その才を伸ばそうと考える。重三郎の浮気を疑うお春に相談された小兵衛。どうやら吉原になじみがあるような様子だが、はっきりとはしない。そんな話を歌麿にすると、「俺ぁ、あいつがそんな野郎だとは、どうしても思えねぇ。なあ、おっさん。あんたは、あいつがそんなクズだって本当におもうのかい」「思えない、な」二人とも本当は重三郎を信じているのだ。

重三郎と勇助:「ふざけるな。そんな行き当たりばったりがあるか」「そうでもしなきゃ、お前、諦めてたろ。いい薬だ。やりてえことをやるには、出たとこ勝負で飛び込まなくちゃならないときだってあらぁな」若い時に勇助は重三郎のために自分を犠牲にしてまで、重三郎の背中をおしていた。

●この本をおすすめする人

仕事に燃えているひと・・考えてからやるのではなく、考えながら行動する、常に新しいことにトライする重三郎の姿が見られます。でも、一人ではできない。仲間が必要。自分にもってないものを持っている人と

●著者プロフィール  谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。駒澤大学文学部卒。2012年、「蒲生の記」で第18回歴史群像大賞優秀賞受賞。13年に「洛中洛外画狂伝 狩野永徳』でデビュー、2作目の『蔦屋」が話題となる。18年、『おもちゃ絵芳藤」で第7回歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。ほかの著書に『曽呂利秀吉を手玉に取った男」「三人孫市」『しゃらくせえ鼠小僧伝』「倉長さまはもういない』『某には策があり申す 島左近の野望』『しょったれ半蔵』『廉太郎ノオト』『桔梗の旗明智光秀と光慶』「絵ことば又兵衛』『吉宗の星』『北斗の邦へ翔べ」『ええじゃないか」「ぼっけもん最後の軍師 伊地知正治』『二月二十六日のサクリファイス』などがある。引用:庫裏表紙より

●まとめ

時代は田沼から松平定信の質素倹約へ変わり、民衆の不満が高まっていく時代に。重三郎の仕事にも圧力がかかってくることにがなるが、小兵衛とタッグでこの時代の荒波をのりきっていく。波乱馬上で痛快な重三郎の半生。仕事をなしていくには途中仲間を失うような辛いこともある。それでも最後まで重三郎は自分の生き方を貫き通していく。